「ビックイシュー(Bib Issue)」をご存じですか?
町中で、雑誌を売っている販売員さんを見かけたことはありませんか?雑誌を片手に、声を出して通行人に呼びかける人や並べて売っている人を知りませんか?その人たちはホームレスです。そしてその人たちが売っている雑誌と、ホームレスの社会復帰に貢献することを目指す企業のことをビックイシューと言います。ビックイシューの「イシュー(issue:英語)」には「問題」と「出版物の発行」の意味があり、イギリスで発祥しました。今や世界で設立され、その雑誌は販売されています。
その日は、私は夜勤明けでとても疲れていました。仕事の内容が大変だったこともありますが、それ以上に自分が担当していた身寄りのない75歳の女性が他の病院へ移ることを聞き心を痛めていました。そんな時、ビックイシューの販売員さんを見かけました。その方は、寒い中ニット帽をかぶり街角に立っていたのです。
それまでの私は、「ビックイシューとは、ホームレスが売る雑誌でそれでその人たちはいくらかの収入を得ている」ということだけを知っており、ホームレスに対する偏見から
雑誌を触る気持ちも起きていませんでした。また、そういう人から雑誌を購入する自分を
周りはどう見るだろうという不安から立ち止まることも全くありませんでした。
ですが、その時は目の端に雑誌の表紙にある「ダライ・ラマ」が止まったような気がしました。インドに行ったこともあり、宗教学に興味のあった私はチベット仏教の高僧であるその本に興味をそそられました。金額も一冊350円で喫茶店で珈琲一杯を飲むより安い。何より、心が疲れている今は何かに癒やされたい、という気持ちが今までの偏見や不安を乗り越え、私は初めてビックイシューを購入しました。
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実際、癒やされることはありませんでした。逆に全く自分が知らなかった世界を知り興奮してしまいました。なぜなら、雑誌の裏表紙に書かれていたビックイシューの販売に関することは、私が知っていた内容を覆すものだったからです。
販売員は、
販売経験不要
資格不要
履歴書不要
保証人不要
で、販売者としてのルール=8つの行動規範を守ることについて同意するだけで働ける。
確かにホームレス支援ですから、上記何も持っていない方の方が多いと思います。でも、それが本当の支援ということなんだと思いました。まずはその人を信じる!そこからが、ビックイシューの理念なんだと。
8つの行動規範は以下です。
1. 割り当てられた場所で販売します。
2. ビッグイシューのIDカードを提示して販売します。
3. ビッグイシューの販売者として働いている期間中、攻撃的または脅迫的な態度や言葉は使いません。
4. 酒や薬物の影響を受けたまま、『ビッグイシュー日本版』を売りません。
5. 他の市民の邪魔や通行を妨害しません。 このため、特に道路上では割り当て場所の周辺を随時移動し販売します。
6. 街頭で生活費を稼ぐほかの人々と売り場について争いません。
7. ビッグイシューのIDカードをつけて『ビッグイシュー日本版』の販売中に金品などの無心をしません。
8. どのような状況であろうと、 ビッグイシューとその販売者の信頼を落とすような行為はしません。
これ以外の決まりはなく、何時間立って売ってもいいし、売り上げたお金を何に使うかも自由なのだそう。
収入を得る方法は、
販売者はビックイシュー10冊(1冊350円)を無料で受け取る
その売り上げ3500円を元手に、以後は170円で仕入れる
1冊350円で販売する
1冊につき180円を得られる
となっており、そこからそれぞれが自立を目指して活動していくようです。
ビックイシューのホームページでは、
第1ステップ 簡易宿泊所(1泊千円前後)などに泊まり路上生活から脱出(1日20~25冊売れば可能に)
第2ステップ 自力でアパートを借り、住所を持つ(1日25~30冊売り、毎日1,000円程度を貯金、7~8ヶ月で敷金をつくる)
第3ステップ 住所をベースに新たな就職活動をする
を自立の目安として紹介していました。販売員の多くの人は第2ステップに挑戦中なのだそうです。
1冊売って180円。1日にどれぐらい売れるんだろう……と、ふと思いました。日によってバラつきがありそうだな、とか。生活のことも考え始めるといくつも質問が浮かびます。
それからしばらくたった休日の午後、前と同じ販売員さんに出合いました。いろいろ気になることがあったので聞いてみたい!と思い、「寒いですね」と声をかけると人なつっこい笑顔で5分ほどおしゃべりをしてくれました。
特に寒い日には安いネットカフェに泊まることもあること、
販売員はホームレスだけではなく、住む所がある人でも低所得で生活できない人も販売員になれること、
それから、
中には病気でいつ起こるかわからない発作のために定職に就くのが難しく低所得にならざるを得ないという人もいること、
ビックイシューのバックナンバーを持っている人も多く、最新号はもちろんその前の号を買うことも可能なことが多いということなどを教えてくれました。
帰り道、ビックイシューのホームページを覗いてみると過去の記事にこんな言葉がありました。
「掲げている理念も、売る人も買う人も、全部ひとつの歌。僕らも街頭に立って声を張り上げて生活費を稼いでいる彼らと同じ歌を歌っている。同じ“生きようとしている人”なんだ。」
ビックイシュー41号 BUMP OF CHICKEN
私の心に”同じ”が残りました。命あるものは同じフィールドで生きようとしていると。
ビックイシューを売っているのは販売員さん。そしてその販売員さんはホームレス・・・
でも、洋服を売っている販売員さんとは、ビックイシューを売っている販売員さんと何が違うのか?
アイスを売っている販売員さん、宝石を売っている販売員さんもしかり。
ビックイシューを売っている販売員さんがホームレスであるということが分かっているから偏見が生まれる。でも、それは他と同じ仕事なんだと、何も変わりはないのだと言うことを知らされました。
初めてビックイシューを買った日、あの日、私の目にとまったビックイシュー。
それは、ずっとダライラマが表紙だったからだと思っていましたが、もしかすると私の目に止まっていたのは寒い中頑張っていたあの販売員さんの姿だったのかもしれません。
頑張っている人を見ると元気がでます。そして、その頑張っている人に喜んでもらえたら、もっと元気がでます。
それから私は毎月販売日の1日と15日には、ビックイシューを手にするようになりました。
ずっと「救済」だと思っていたビックイシュー。今は私が救われているような気がしています。